あぶりもち地図

一皿15個500円
 今宮神社東参道をはさみ、北と南の店が競いあっている。
二股の細い竹に親指大の餅を刺し、炭火であぶり、きな粉をまぶし、甘い味噌だれにつける。
 一帯はこうばしい香りが漂い、思わず店に引き込まれる。
 焼くが厄除けになるという。
 千利休も茶菓がわりに用いたといわれる。
竹が二股に割れて先が広がっているが、この広がりがなければ刺さった餅は落ちてしまう。
 100年前の写真とほとんど変わっていない。
 私は何といっても、雪のふる一日に裏門を出て両側の「あぶり餅」本家、元祖の客をよびこむ風景に息をのんでいる。一文字屋とかざりやである。赤い前かけをした女中さんらが、充血した手甲を光らせて、「寄っといやす、あぶり餅どっせ」と呼び、表の炭火であぶる餅を、雪のかかる店先で喰っていると、向こうの朱の神殿に雪が舞い、冷えた腹に熱い餅がしみるのだ。学校をさぼって餅喰いにきた貧書生も、一瞬平安時代に入りこめる錯覚なのである。
  
  京都遍歴   水上勉  より