アゴ

国民学校三年の秋
大阪から愛媛県のお寺に疎開した
みかん山で
みかんの運搬作業をした
斜面で 滑って しんどかった
担任の本郷先生が言った
こらァ こんな軽い勤労で
アゴ出すな
戦地の兵隊さんのご苦労を思え

小学校四年の秋
疎開から帰って学校が始まった
窓にガラスがない教室で寒かった
いつも腹ペコでちぢこまっていた
担任の高野先生が言った
こらァ もっと胸を張れえ
ばかもん 腹じゃない 上を向いて
アゴを前に出す よろしい
お前ら これからの平和にっぽんを
背負って立つんじゃから元気出せえ

おとなになって 会社に勤めた
日曜も日直当直 休みが乏しかった
アゴが増え 盆正月も
アゴを出して働いた
長いこと お国のために忙しかった

アゴの頭をなでて
顔からはずしてやった

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