母親

娘がキッチンにいて
構ってやらないから
一歳半の孫坊主が泣いている
ミニカーを放り出して
声を 大きく長━く引っ張ったり
急に一段と張り上げてみたり
高いところでちょっと切ったりして
この世の悲しみを
全部引き受けているみたいに
娘はそれでもとんで来たりはしない

むかし
サイレンが低いところから鳴り出し
それから一気に高音になって
不気味に一瞬ストップ
それが繰り返されると
おびえるぼくと弟を先に押し込んで
自分は蝋燭の鈍いあかりで縫い物
爆音が地鳴りしてくる
ぎりぎりまで
防空壕に入らなかった
彼女の祖母のように

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