鰐淵寺は出雲大社をはさんで北山山系の真裏にある天台宗の古刹である。弥山、天台ヶ峰、鼻高山、旅伏山（たぶし）
とつらなる北山の山嶺は密教、修験道の聖地であり、とりわけ鰐淵寺浮浪滝およびその背後の蔵王宝窟、蔵王堂は出雲における蔵王信仰の拠点とされる。
出雲大社が中世一宮として地位を固めるなかで、神宮寺・別当寺でもないのに、鰐淵寺は大社との連携を強めていった。とりわけ、尼子氏による寺社支配
が強化されると、大社境内の寺院化が進み、同社における仏事の導師を鰐淵寺僧侶が務めることにもなった。鰐淵寺の境内にあっては蔵王権現とともに
杵築大明神を合祀し、神仏習合色を強めていった。ところが、寛文度ぼ遷宮において、神道唯一の復古機運がたかまり、鰐淵寺に対して、大社祭礼への参加
無用が通達され、大社と鰐淵寺の関係は絶縁された。
　神仏習合時代の名残であろう摩陀羅神社が境内の片隅に鎮座している。